2012年7月11日水曜日

中国iPad商標訴訟批判の間違い


 中国で中国企業が先にiPadという名前を商標登録しアップル社が困って裁判を起こしたが、結局和解となりアップル社がお金で商標権を買う結末となった。これを見た一般人は「中国企業はけしからん」という間違った判断をしてしまいがちである。例えば、真壁昭夫氏「いつまで“わからず屋”と付き合えばいいのか?」http://diamond.jp/articles/-/21293 。一般人は中国をいつまでも後進と位置づけるステレオタイプの見方しか出来ないのだろうが、実は、今の中国政府の商標登録制度は米欧とほぼ同レベルの厳正な出願審査手続きを行っている。また、今の中国は正式な裁判については、昔のような「人治国家」ではなっく、ちゃんとした法治国家としての手続きが行われている。その結果として、アップルは和解金を払って商標を買い取ったのである。即ち、アップルは実質的に正義を求める訴訟には負けたということである。ルール通りの手続きとしては、この中国企業の方が大義があったということである。ここで「アップルは時間がかかるので金で済ませた」という論評もあるが、現在の法律と現場とを理解していない者の言説である。
 真の問題点はもっと他にある。世界の国々が採用している商標法自身の問題点である。
 一つ目の問題は「先出願主義」である。ある商品名を考え付いて、先に政府に出願書類を提出した人がその国での商標権を得ることが出来るという法律である。その商品名が世の中に出回っていない場合は、政府はこの法律によってこの出願人に商標権を与えざるを得ない。この出願人が実際にその商品名を実際に広く使うかどうかをさておいて、とりあえず商標権を与えてしまうのである。これは、日本も含め世界の殆どの国で同じルールである。また、その手続き料は、商品名一個数万円レベルと非常に安い。だから、出願人がとりあえず商標権だけを取って直ぐには使わないでじっと保持しているということがどの国でも頻繁に起きる。
 そこでその対策として、このような使わない商標権に対しては、これを取消し出来るように殆どの国の法律で決められている。「不使用取消し」と云われる手続きである。しかし、二つ目の問題として、この不使用取消し手続きが、どこの国も甘過ぎるのである。先ず、期間が三年。三年以内に使用しなければ他の人が取消しを求めることが出来る。逆に言えば三年近く使用しなくても良い。これでは猶予期間が長過ぎる。その上、「使用した」という実績が非常に形式的なもので可とされることも問題である。一度だけ新聞の端に小さな広告を出したらそれでOKとか、一度だけ正式インボイスに名前が記載されたらそれでOKとかの緩いもので使用実績として認められる。上記のような実績だけなら、それは不使用と実質的に同じである。
 このような形式的出願主義と甘い取消し処分とで、実際に守らなくても良いような商標権が多数登録されているのである。これは各国共同じである。このことこそが、真の問題点なのである。iPad訴訟は、このような商標法自身の欠陥に起因する問題なのである。
 「中国企業は悪質」などという手垢の付いた皮相的な批判を口にする前に、このような商標法の基本的な構造欠陥を認識する必要がある。

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