2012年3月23日金曜日

「トレードマークビザ」 国際制度の新提案

TRADEMARK VISA” Treaty

外国商標に良い意味で治外法権を与える新法制の提案
New Proposal of Extraterritoriality for Trademark Legislation

 提案:「外国から輸入した或る物品の商標に国内商標制度の適用外を表す表示をする」国際制度(条約)を導入する。例えば「注意:本品の商標はX国に登録されているものとは関係が無い」あるいは「Caution! No relation to registered trademark here」という表示(及び後述の付帯情報)を一定以上の大きさでその物品上に表示し、当該国で登録された他者の商標と並存して同一または類似の商標の表示を許す。

 背景:各国の商標法の原則は国内では一製品(商品分野)にただ一つの商標登録しか許されず、これと同一または類似の商標の使用は排除される(先使用など限定例外あり)。一方、過去から、或る国で有名な商標は他の国で誰か他人が勝手に先に登録することや勝手に先に使用することが頻繁に行われ、問題となってきた。それに対しては、従来は法的な対応として「著名(周知)商標制度」をつくり、前記のような先に使っていた他人を排除しようとしてきた。しかし、著名と認められる為には各国に様々な障壁が在る。小さな市場の商品では外国では著名と認められにくい。また逆に、著名商標制度は、全く異なる商品で善意で先に使っていた他人まで排除してしまう過剰な強さを持っている一面もないことはない。本提案は、このような問題を解決しようとするものである。

 具体策:輸入者の申請により、輸入品の一品一品に前記のような国内商標制度「外」表示をする。あるいは、それ専用のロゴを国際的に作っても良い。商標の最も大切な機能は消費者が出所を混同しないことである。従って、上記のような商標「外」表示と共に、その国内での責任会社名住所電話責任者名等を明確にしておく必要がある。国に登録することになろう。また、製造し輸出する元の国での商標登録が行われていることも要件とすべきであろう。この製造国も製品に表示されることになる。これらの付帯情報は全てを製品上にダラダラと表示しなくても、輸入国での登録番号などで管理して短く表示できるだろう。違反者への罰則も当然必要。予め保証金を預けるのも望ましい。これらは食品の成分表示や産地表示などと同様の法規となる。そして、この表示は輸出入通関の際だけではなく、最終消費者の手元に行く迄添付される必要がある。

 効果:上記の制度により、他国で先に悪意で同様な名称を登録されている商標の物品でも、当該他国に原産国からオリジナル品を輸出し販売することが出来るようになる。例えば、J国の農産物リンゴで「Fuji」の名前を先にM国で登録されていても、商標制度「外」表示により、J国のふじりんごを「Fuji」の名前のままでM国で売ることが可能となる。そして、J国の本物が欲しいと思っているM国の消費者は登録情報等を見て、オリジナル品を購入することが可能となる。一般に中小企業や農業などの産品は、企業規模が小さい関係もあり、著名商標認定のハードルが高い。その販売障壁を、このような制度により解消することが出来る。

 仮名称:当該国の国内において、外国のモノが、或る登録をすることにより、国内のモノと同様に存在出来るという意味では、人間においての外国人へのビザ(査証)のようなものであるので、ここでは仮に、商標のビザ(Trademark Visa)と名づけておく。

想起する問題点及び解決策:
1.トレードマークビザ表示が外されて商標のみが付いたまま販売される可能性。
 トレードマークビザ表示を外すと当該国国内商標法の適用を受けることになり、他者の登録商標を付して販売する行為は、即ち、当該国の商標法違反行為となり、当該国商標法で取締りができる。
2.「トレードマークビザ登録をしている外国のオリジナル品」のように偽装された贋物が輸入され販売される可能性。
 トレードマークビザ表示品は、国内商標法サイドから見ると「無印」の商品という扱いとなる。即ち、この外国のオリジナル品は当該国の商標法に守られてはいないので、商標法での取締りは出来ない。当該国刑法の詐欺罪や私文書偽造あるいは不正競争防止法の範囲での取締りをすることになる。
3.原産国の真正品商標所有者による商標が当該国で既に商標登録されている場合に、贋物が「これは贋物です」と開き直ってトレードマークビザと共に輸入され堂々とと同じ商標を付して販売される可能性。
 具体策に記したように、トレードマークビザの登録要件として少なくともどこか一ヶ国で商標登録されその国で製造されるという条件にしておくと、そこで一旦スクリーニングされる。
 更に悪い事態として、贋物製造者が贋物製造国での正規商標を取ってしまっている場合は、そのまま輸入販売が可能であることになる。その場合、消費者は、国内登録商標のものを買うか、この贋物即ち例えばC国で登録された同じ商標のものを買うか、を選択することになる。もし消費者が「J国で登録されたものが本物である」という知識を持っているならばC国登録品は買わないだろうし、もし消費者がそのような知識を持ち合わせていない場合は、「無印」即ち「この商品は商標が表示されていない品物と同じ」と看做すことになるので、このトレードマークビザ品は買わないという選択になる。どちらにせよ、贋物を買わないという選択が出来る。
4.並行輸入商品
 トレードマークビザは、その目的を考えると、限定的な特殊な場合に法律の域外適用(域内不適用)を認める特別措置の位置付けなので、当該国の管理の複雑化を避ける為にも、消費者の混乱を避ける為にも、並行輸入は認めない方が好ましいであろう。
5.トレードマークビザ表示のみが消費者によって取り去られ商標だけが残った状態で商品が使用され(たとえ商標法違反にはならないとしても)商標が希釈される可能性。
 包装に主要な外国商標及びトレードマークビザ表示がある食品、薬品、化粧品、各種材料等は、使用時に商標を他人に見せることが殆ど無いので、この「希釈」の可能性はない。
 例えば、表面全体に夥しい数の商標ロゴを図柄として配したハンドバッグからトレードマークビザ表示のみを取り除いて市中を持ち歩くという行為が「希釈」に当たる可能性がある。しかしこのようなことは著名商標のみに関係する事象だと思われる。即ち、著名商標ではない一般的な物品では希釈の可能性は非常に低い。
6.オリジナル品の海外製造展開に一考を要する。
 本制度では製造国と商標登録国とを同一にすることを登録要件としているので、オリジナル品を原産国以外に海外工場展開して製造した場合は、当該トレードマークビザ登録の対象外となる。即ち、オリジナル品の製造者は努めてその自国内で生産したものを輸出する必要がある。これは、商標権保有企業の海外製造展開による事業拡大には不利に働く場合もあろう。しかし、消費者側から見ると、商標権保有者の目の届きやすい範囲(=原産国)で生産された物品を手に入れることが出来るので大きな安心感がある。この製造者側の事業拡大に関するデメリットと、消費者側の信頼安心の面でのメリットとを比較すると、消費者の利益のほうが大きいと思われる。そもそも、一般的にグローバル展開していない中小企業にとっては殆ど問題はない。更に、各国政府としては自国内の特長ある産業の海外流出による空洞化を防げる。
7.サービスマーク
 理論的には、サービスマークに関しても同様なトレードマークビザ制度が構築出来る筈である。消費者の所望の外国のサービスを国内商標を気にせずに国内で提供を受けられることは消費者の大きな利益となる。フィージビリティスタディが望まれる。

 上記のような制度です。商標法の真の目的は、一商標独占を固守することではなく消費者の混同を起こさないこと、という原点に立ち返り、主に中小企業の商標が国際展開される時の悩みと、消費者の国際的な広い選択範囲から良い物を求めたいという要求に対して、「商標並存」のアイデアを考えてみました。
 世界中の人々の暮らしの中で、いまやパソコンは必需品です。世界中の人々はパソコンの画面を毎日見続けています。その画面には世界中の情報が映し出されます。世界中の商品および商標が映し出されます。その場合、当然パソコンの存在する国(パソコンを見ている人の国)の商標とコンフリクトがある商標も画面に映ります。でもインターネットは平気です。見るほうも平気です。そして、このような外国の商標の国内パソコンへの「無断」乗り入れは、将来も益々爆発的に増加していきます。国境で囲い込んで文字や言葉を一人に独占使用させるというシステムには、構造的な限界が来ています。
 商標制度の社会的な基本目的は、出所の混同を起こさないことです。外国から情報が大量に入ってきても出所の混同が起きなければ良い訳です。消費者が商標で混乱することが防げれば、色々な豊富な情報と色々な豊富な選択肢の商品が入ってくるほうが国民が豊かになります。
 とにかく今後益々世界中どの国でも情報のグローバル化が進み、沢山の商標が並存せざるを得ない状況になります。そのような状況に対して、とりあえず各国が協力して採り得る現実的な施策の第一歩として、上記の提案をさせていただきます。上記具体提案は「第一歩」ですので、かなり適用範囲を限定しています。技術進歩やコンセンサスの度合いに応じて更に進んだシステムにも改良していけると思います。

 以上のような国際制度の導入を望みます。なお、この制度は一国単独でも導入可能な制度です。